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事例

三菱重工業 - セキュアなリモート監視

· 約14分で読了
三菱重工業はRemote.Itを使用してエッジコンピューティングのセキュアな接続とリモート監視を実現しています

三菱重工技報 Vol. 57 No. 1 (2020年3月)

三菱重工業により原文が公開されました

著者: 髙尾健司(ICTソリューション本部 CIS部 主席部員 工学博士)、木村修(三菱日立パワーシステムズエンジニアリング株式会社 長崎事業部サービス推進部 グループ長)、西村利通(同社 長崎事業部サービス推進部 主席T統括)、吉貝太(同社 長崎事業部総務部)

クラウドシステムを活用して状態解析や予兆検知を行うサービスは広く利用されるようになってきましたが、プラントなどの監視対象を外部ネットワークに常時接続することにはセキュリティ上の懸念があります。このため、データを外部に送信することなく状態監視を行う、エッジコンピューティングを用いたリモート監視サービスシステムが近年注目を集めています。しかし、このようなエッジコンピューティングによるプラントの状態監視を用いた場合でも、検知された異常の原因を特定するために、現在のプラント状態を遠隔の保守担当者と効率的かつセキュアに共有する方法という課題がありました。

そこで私たちは、必要なときにのみエッジコンピューティングシステムと外部ネットワークとの間で、比較的容易かつ安価にセキュアな接続を可能にする技術を開発しました。これにより、高いレベルのセキュリティを維持しながらリモート監視サービスを提供することが可能になります。

はじめに

近年の機械学習およびAI技術の向上を背景に、日々収集されるプラントデータに基づいて異常検知や予兆診断を行うリモート監視サービスの導入事例が増加しています。加えて、クラウドサーバーの信頼性向上とコスト低下に伴い、多くの場合リモート監視システムはクラウド上に構築されています。しかし、クラウドサーバーを用いたリモート監視には、外部ネットワークへの常時接続と、運転データのクラウドサーバーへのアップロードが必要です。このような常時接続は、制御機器へのサイバー攻撃や運転データの漏洩のリスクを高めるため、多くのプラントオーナーはリモート監視システムおよびサービスの導入に消極的です。一つの解決策が、エッジコンピューティングに基づくデータ解析サービスです。エッジコンピューティングでは、監視・解析ロジックを備えたコンピュータをプラント内に設置してデータをその場で処理し、異常の検知・予測を行うことで、データを外部に送信することなくプラントの状態監視を可能にします。しかし、エッジコンピューティングを用いた監視サービスには、以下の課題があります。

(1) エッジコンピュータが収集したデータと解析結果を、遠隔の保守担当者と共有すること

(2) エッジコンピュータにインストールされたデータ解析プログラムを更新すること 上記の対策として、一般にはVPN(仮想プライベートネットワーク)がよく用いられますが、機器やサービスが高価であり、設定も煩雑です。そこで私たちは、複雑な設定を必要とせず比較的安価かつ容易に構築できるセキュリティ技術を用いて、必要なときのみ外部ネットワークとのセキュアな接続を確立し、必要な操作のみを許可するリモート監視サービス向けのシステムを開発しました。

セキュア通信技術 - NATトラバーサル + 独自の暗号化通信

セキュア通信技術の特徴

開発したシステムは、米国のremot3.itが提供するセキュア通信技術を使用しています。この技術はremot3.it独自のNATトラバーサルおよび暗号化通信に基づいており、小型・軽量・シンプルであることが特徴です。特に、以下の機能により高いレベルのセキュリティが確保されています。

(1) セキュアな接続にパブリックIP(インターネットプロトコル)は不要です。接続先にプライベートIPを開示する必要もありません(図1)。

(2) インバウンド(外部から内部への)通信先マシンのすべてのポートを閉じたままセキュアな通信が可能です(図2)。

さらに、この技術はパッケージ化された技術であり、暗号化通信やNATトラバーサルの知識がなくてもセキュア通信技術を容易に利用でき、比較的スムーズに導入することが可能です。

セキュア通信技術の詳細

図3は、remot3.it独自のNATトラバーサルと暗号化を組み合わせたセキュア通信技術の仕組みを示しています。この図において、「管理サーバー」はクラウド上に配置されており、そのサーバーがすべての接続を管理します。各端末は自身の位置情報(自身のローカルIPおよび接続先ルーターのパブリックIP)を暗号化し、UDPを用いて定期的に管理サーバーへ送信します。これにより、端末が別のルーターに接続された場合でも、端末から送信される情報に基づいて端末情報を適切に更新することで、管理サーバーは常に端末の位置を把握することができます。

端末間の接続を開始する際、接続要求元は接続要求先のサービス名(マシン名+サービス名)を管理サーバーへ送信します(1)。サーバーは要求元を認証し(2、3、4)、要求情報を解釈して接続に必要な情報を暗号化し、接続要求元に送信すると同時に(5-1)、接続要求元の情報を接続要求先にも送信します(5-2)。この過程で、接続要求元と接続要求先のUDPポート番号に基づき、ステートフルインスペクションの原理を用いた情報交換(5-1、2)が行われ、端末間に独自の暗号化トンネルが確立されます(6、7)。確立された独自の暗号化トンネルでは、例えばSSHを使用する場合、SSH接続先のホスト情報を用いることなく、ローカルホスト(ループバックアドレス127.0.0.1)を使用することで、SSH接続先のIPアドレスとポート番号を完全に隠すことができます。この技術を利用するための準備は、接続対象のマシンに専用アプリケーションをインストールし、マシン名とサービス名を登録するだけであるため、シンプルな設定と操作で高いレベルのセキュリティを確保することができます。

セキュアなリモート監視サービスシステム

システム構成

本章では、第2章で説明したセキュア通信技術を用いて開発したリモート監視サービスシステムについて説明します。図4はこのシステムの構成を示しています。Webアプリケーションによるリモート監視機能(3.2(1))のみを使用する場合、接続元であるリモート監視PCおよび顧客の監視PCにremot3.itソフトウェアをインストールする必要はありません。(注:3.2(2)または3.2(3)の機能を使用する場合は、remot3.itソフトウェアのインストールが必要です。)

機能

リモート監視サービスは以下の機能を提供します。これらの機能を利用することでセキュアなリモート監視サービスの導入が可能になり、異常発生時の早期検知・早期復旧を通じて稼働率の向上が期待できます。

  1. http/httpsを用いたWebアプリケーション画面の閲覧

この機能により、Webサービスの利用を特定のユーザーに限定することでセキュリティレベルを高めることができます。この機能を利用するユーザーは、Webサーバーを含むマシンへの接続を確立した後、ブラウザにローカルホストアドレス(127.0.0.1)を入力するだけで、対応するWebアプリケーション画面を閲覧することができます。実際のIPアドレスは使用されないため、高いレベルのセキュリティが確保されます。

  1. リモートデスクトップを用いたリモートマシンへのアクセス

顧客のプラントサイトに設置された、データ解析エンジンとWebサーバーを含むコンピュータ(エッジコンピュータ)を操作するためには、遠隔からの保守が必要です。リモートアクセスの権限を顧客に付与することで、顧客自身が外部からのアクセスを容易に管理することが可能になります。上記(1)と同様に、リモートアクセスに用いるIPアドレスにはローカルホストアドレス(127.0.0.1)を使用します(図6)。

  1. データの自動セキュア送信

エッジコンピューティングを用いた監視サービスを利用している場合でも、異常発生時などには遠隔のデータアナリストによる詳細なデータ解析が必要になることがあります。このような場合、この機能を利用してデータを安全に送受信することができます。例えば、エッジコンピューティングを用いた測定値の予測において予測精度の低下が検知された場合、原因解析に必要なデータがセキュアデータ転送プロトコル(sFTP)を用いて対応するマシン(遠隔地)へ送信され、送信完了後にセキュアな接続は自動的に切断されます。これにより、人手を介さない自動的なデータ共有と迅速な原因特定が可能になります。また、例えばエッジコンピュータへセキュリティパッチを送付する場合にも、同様の方法で遠隔地からエッジコンピュータへファイルを安全に送信することができます(図7)。

適用事例

本稿で説明したシステムの一部機能は、三菱日立パワーシステムズエンジニアリング株式会社長崎事業部が実施したVPSA(Vacuum Pressure Swing Adsorption:真空圧力スイング吸着式)酸素発生装置のアフターサービスにおいて検証テストが行われました。

従来、顧客プラントでアラームが発生した際には、MHPSエンジニアリングは顧客に対し、原因調査に必要なデータをメールで送付してもらうよう依頼したうえで、詳細な解析を実施していました(図8)。この過程では復旧に多くの時間を要し、顧客のプラントの稼働率低下につながっていました。

開発したセキュア通信システムは、このリモート監視サービスに適用されました。図9は、その概略図とセキュア接続のプロセスを示しています。このサービスシステムには、以下の機能が備えられていました。

(1) グラフィック操作端末を用いた運用支援 (2) コントローラ(PLC)のラダープログラムの表示およびプログラムの改善 (3) 顧客プラントの制御装置から取得したデータのトレンドグラフ監視 (4) 詳細データ解析のための運転ログファイルのセキュア送信機能

開発したシステムは顧客プラントに適用され、検証テストが実施されました。検証テストの結果、上記のすべての機能をMHPSエンジニアリングから遠隔で実行できることが確認され、所期の要件を満たすことが確認されました。

さらに、本システムはMHPSエンジニアリングにより複数の顧客プラントで検証テストが進められています。これらの検証テストを経て、2020年度中にサービス開始が予定されています。

結論

本稿では、NATトラバーサルと独自の暗号化技術を組み合わせたセキュア通信を用いて開発したリモート監視システムについて紹介しました。

NATトラバーサルと独自の暗号化技術を組み合わせたセキュア通信の利用により、データ共有方法などの従来のエッジコンピューティングが抱えていた課題を解決し、幅広い顧客にリモート監視サービスを提供することが可能になりました。

開発したシステムはMHPSエンジニアリングが計画するリモート監視サービスに適用され、その有効性が検証されました。今後は、他のプラントへの展開や、顧客価値の向上にさらに貢献できる機能の開発を計画しています。

本システムの開発にあたり、remot3.itより技術的なご支援をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

MHIの技術事例研究のPDF版を英語版および日本語版でダウンロードいただけます

← すべての記事 更新日: 2024年4月5日
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